
この記事では、補助金で最も多い失敗の一つである「交付決定前の契約・発注」について、なぜ補助対象外になるのかを法律と公募要領の記載から説明します。あわせて、交付決定までの間に進めてよい準備と、避けるべき行為を具体的に整理します。
交付決定前の発注が対象外になる理由
国の補助金は「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(以下、補助金適正化法)に沿って手続きが進みます。事業者が交付申請書を出し(第5条)、国や事務局が内容を審査したうえで「交付決定」を行います(第6条)。交付決定とは、どの事業に、どの経費を対象として、いくらまで補助するかを正式に決める行政上の手続きです。
補助の対象は、この交付決定の内容に沿って行われた事業に限られます。交付決定より前に結んだ契約は、決定の内容が固まる前に始めた事業であり、補助金で支援する事業の範囲に入りません。
各制度の公募要領も、この点を明記しています。中小機構の「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」第1回公募要領では、「事前着手の禁止」として、交付決定日より前に補助事業に係る製品の購入や役務の提供に係る契約(発注を含む)等をした経費は補助対象にならないとしています。SIIが執行する令和7年度補正予算の省エネ・非化石転換補助金(設備単位型)の公募要領でも、契約・発注行為は必ず交付決定日以降に行うこととされ、交付決定以前に係る経費や契約・発注行為に係る経費はすべて補助対象外とされています。
「採択」と「交付決定」は別の手続き
失敗の多くは、「採択された=もう発注してよい」という誤解から生まれます。制度によっては、採択の通知を受けたあとに改めて交付申請を行い、その審査を経て交付決定となります。
- 応募申請事業計画を電子申請
- 採択補助金交付候補者として選ばれる
- 交付申請経費の内容と見積を精査される
- 交付決定ここで補助対象と金額が確定
- 契約・発注交付決定日以降に行う
同補助金の第1回公募要領(中小機構)をもとに作成。手続きの順番は制度ごとに異なります。
同補助金の公募要領では、採択結果は事業計画に記載したすべての経費と金額について交付決定を保証するものではなく、交付申請時の精査で減額や全額対象外となる場合があるとしています。交付申請は原則として採択発表日から遅くとも2か月後までに行う必要があり、交付決定前に採択された事業計画を変更することも認められていません。
一方、SIIの省エネ・非化石転換補助金のように、交付申請そのものを審査して採択と交付決定を行う制度もあります。いずれの場合も、発注してよいのは「交付決定通知を受け取ったあと」と覚えておくのが確実です。
どこからが「契約・発注」にあたるか
公募要領が対象外としているのは、契約や発注に当たる行為と、それに係る経費です。実務では、次のような行為が問題になりやすいため注意が必要です。
- 注文書・発注書を販売会社や施工会社に出す
- 工事請負契約や売買契約を結ぶ
- 手付金や前払金を支払う
- リース契約を結ぶ(新事業進出・ものづくり補助金の公募要領では、リース・レンタルは交付決定後に契約したことが確認できるものに限るとされています)
- 事前調査や設計を有償で依頼する(SIIの公募要領では、交付決定以前に係る事前調査費等も対象外とされています)
「仮発注」「内示」など名称を変えても、実質的に契約が成立していれば同じ扱いになるおそれがあります。判断に迷う行為がある場合は、実行する前に事務局へ確認してください。
交付決定前に進めてよい準備
交付決定を待つ間も、準備できることは多くあります。むしろ、この期間の準備が事業期間内に完了できるかを左右します。
交付決定前に進めてよいこと
- 見積書の取得(相見積もり)
- 納期や工期の確認
- 社内の稟議と資金計画
- GビズIDなど申請環境の準備
交付決定後に行うこと
- 注文書の発行・契約の締結
- 着工・設備の搬入
- 代金の支払い
- 検収と実績報告の準備
見積書の取得は、交付決定前に行うのが通常です。SIIの公募要領では、3者以上の見積依頼・競争入札は、1次公募の公募要領公開日(2026年3月25日)以降の発行日であれば交付決定前の実施も有効と明記しています。見積の取り方は相見積もりの取り方 補助金で求められる見積書の要件で解説しています。
また、SIIの申請案内では、見積取得の段階で、事務局が定める事業完了日までに設備を手配できるかを確認するよう求めています。納期の長い設備では、交付決定後すぐに発注できるよう、仕様と見積条件を事前に固めておくことが大切です。
交付決定後も守るべき期限
交付決定後に発注すればよいというだけでなく、決められた期間内にすべてを終える必要があります。新事業進出・ものづくり補助金の公募要領では、補助事業実施期間内に契約(発注)、納入、検収、支払等のすべての手続きを完了することが求められ、分割払いの一部でも期間内に終わらなければ、その契約の経費全体が対象外になるとされています。
SIIの省エネ・非化石転換補助金(設備単位型)4次公募では、交付決定は2026年12月下旬の予定、単年度事業の完了期限は原則2027年1月31日とされています。交付決定から完了までの期間が限られる制度では、発注の遅れがそのまま補助金の喪失につながります。
ルールに反した場合のリスク
交付決定前に発注した経費は、最初から補助対象として認められません。申請時にその事実を伏せて交付を受けた場合は、さらに重い問題になります。補助金適正化法では、交付決定の内容や条件に違反したときは交付決定を取り消すことができ(第17条)、既に交付された補助金の返還が命じられます(第18条)。返還を命じられた補助金には、受領日から年10.95%の割合で加算金がかかります(第19条)。
補助金の条件は年度や制度ごとに見直されます。事前着手の扱いについても、必ずその年度の公募要領で確認してください。
タンソーマンGXでは、制度の選定から見積書の取得、交付申請、発注時期の管理、実績報告までを一貫して支援しています。詳しくは補助金支援のページをご覧ください。
参考資料
- e-Gov法令検索 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律
- 中小機構 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回)
- SII 令和7年度補正予算 省エネ・非化石転換補助金(設備単位型)公募要領(4次公募)
- SII 省エネ・非化石転換補助金 申請方法
本記事の内容は2026年10月21日時点で公表されている資料に基づきます。最新の条件は各事務局の公募要領をご確認ください。



