
介護人材の確保が、全国の自治体・介護事業者にとって大きな課題になっています。
厚生労働省は、第9期介護保険事業計画に基づき、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人の介護職員が必要になると推計しています。
また、令和6年介護サービス施設・事業所調査では、訪問介護が37,264事業所、訪問看護ステーションが18,042事業所あります。
つまり、訪問系サービスを支える人材をどう確保するかは、一部の事業者だけの課題ではありません。地域の在宅介護・在宅療養を維持するための、自治体共通のテーマになっています。
その中で、一つの仮説を持ちました。
訪問看護・訪問介護の現場において、「移動の負担」が、採用や定着に大きく影響しているのではないか。
訪問系の仕事では、利用者宅を1件ずつ回ります。
自転車、電動自転車、原付、自動車、公共交通機関。移動手段は地域や事業所によって異なりますが、現場のスタッフにとって、移動は業務の一部です。
雨の日も、真夏日も、寒い日も、荷物を持って移動しなければなりません。坂道が多い地域もあります。駐輪・駐車場所に困る地域もあります。移動距離が長く、身体的な負担が大きい地域もあります。
しかし、求人票で語られるのは、多くの場合、給与、勤務時間、休日、資格手当、研修制度などです。
「移動しやすい職場かどうか」は、意外と見落とされてきたのではないでしょうか。
そこで今回、訪問看護・介護スタッフ経験者200名を対象に、勤務中の移動負担と、会社貸与のEVバイクに関するアンケートを実施しました。
回答者は、訪問介護、訪問看護、訪問リハビリ、居宅介護支援などの経験者です。回答地域は41都道府県に広がっており、都市部だけでなく、全国の訪問系スタッフの声が含まれています。


77.0%が、勤務中の移動に負担を感じている
まず、勤務中の移動に負担を感じるかを聞いたところ、次の結果になりました。

「かなり感じる」と「やや感じる」を合わせると、77.0%です。
つまり、訪問看護・介護スタッフ経験者の約8割が、勤務中の移動に何らかの負担を感じていることがわかりました。
これは、かなり大きな数字です。
訪問系サービスにおいて、移動は避けられません。だからこそ、現場では「仕方ないもの」として扱われてきた可能性があります。
しかし、採用難が続く中では、「仕方ない」で済ませてよい課題ではありません。
つらいのは、坂道だけではない。雨・暑さ寒さ・駐輪駐車が大きい
移動で特につらいことを聞いたところ、上位は次の通りでした。

ここで重要なのは、移動負担の中身が一つではないことです。
EVバイクというと、「坂道に強い」というイメージが先に立ちます。もちろん、坂道は重要な課題です。
ただ、今回の調査では、坂道よりも「雨の日」「夏の暑さや冬の寒さ」「駐輪・駐車場所」の方が上位に来ました。
つまり、現場の移動負担は、単なる移動距離の問題ではありません。
天候、気温、荷物、駐輪・駐車、坂道、時間管理。これらが重なって、訪問スタッフの日々の負担になっています。
会社からEVバイクを貸与されたら、79.5%が関心あり
次に、会社から業務用EVバイクを貸与されるなら使ってみたいかを聞きました。

「ぜひ使ってみたい」と「少し興味がある」を合わせると、79.5%です。
もちろん、これをもって「8割がEVバイクを強く希望している」とまでは言えません。強い希望である「ぜひ使ってみたい」は24.0%です。
しかし、「会社から貸与されるなら関心がある」という層は、明確に多数派でした。
これは、介護事業者にとって重要な示唆です。
スタッフに対して、単に「自分で移動してください」とするのではなく、会社として移動手段を整えることは、福利厚生として十分に意味を持つ可能性があります。
EVバイク貸与のある職場に、77.5%が興味を示した
さらに、EVバイク貸与がある訪問看護・介護事業所があれば、応募・転職先として興味を持つかを聞きました。

「かなり興味を持つ」と「条件次第で検討する」を合わせると、77.5%です。
ここも表現には注意が必要です。
「EVバイクがあれば転職する」とは言えません。給与、勤務時間、職場環境、人間関係、訪問件数、教育体制など、転職判断には多くの条件があります。
ただし、求人票に「EVバイク貸与あり」と書かれていた場合、それが職場に興味を持つきっかけになる可能性は高いと考えられます。
採用において大事なのは、まず求人を見てもらうことです。そして、「この職場は現場の負担をわかってくれている」と感じてもらうことです。
EVバイク貸与は、単なる乗り物の話ではありません。
「現場スタッフの移動負担を、会社がきちんと考えている」というメッセージになります。
特に反応が強かったのは、自転車・電動自転車・原付で訪問している人
今回の調査では、現在の移動手段も聞いています。

全体では、自動車利用者が最も多い結果でした。
ただし、EVバイクへの反応が特に強かったのは、自転車・電動自転車・原付を利用している層です。
自転車・電動自転車・原付のいずれかを使っている回答者では、次のような結果になりました。

これは非常に大きな違いです。
自動車移動が中心の地域では、EVバイクだけでは課題解決にならない場合もあります。一方で、自転車や電動自転車で訪問している都市部・住宅密集地では、EVバイク貸与がかなり具体的な改善策になり得ます。
つまり、EVバイクは全国一律に導入するものではありません。地域特性と現在の移動手段に合わせて導入することが重要です。
都市部では、EVバイク貸与への関心がさらに高い
今回の回答では、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、京都府、愛知県、福岡県など、都市部の回答も多く含まれています。
これらの都市圏回答者では、EVバイクへの関心がさらに高く出ました。

都市部では、自動車よりも自転車・電動自転車・公共交通機関を使うケースが増えます。また、駐輪・駐車場所、狭い道路、訪問先間の短距離移動など、都市部ならではの課題もあります。
この点で、EVバイクや小型モビリティは、訪問看護・介護の現場において、単なる脱炭素施策ではなく、現場の働きやすさを高める手段になり得ます。

特に注目すべきは、「EVバイク貸与のある職場に興味あり」が100.0%だった点です。東京都の回答者は全員、「かなり興味を持つ」または「条件次第で検討する」と答えています。
もちろん、34件という規模であり、これだけで「東京の訪問看護・介護スタッフ全員がEVバイクのある職場を求めている」とは言えません。
ただ、駐輪・狭い道路・短距離移動・坂道など、都市部特有の移動課題が集中する東京において、EVバイク貸与が採用上の強い訴求材料になり得ることを、この結果は示唆しています。
自治体にとっては、介護人材確保策として考えるべきテーマ
今回の調査で見えてきたことは、EVバイクそのものの需要だけではありません。
より重要なのは、訪問看護・介護の現場で、移動負担が採用・定着に影響している可能性です。
自治体にとって、在宅介護・在宅療養の維持は重要な政策テーマです。しかし、訪問するスタッフが確保できなければ、サービスは維持できません。
そのためには、処遇改善や研修だけでなく、日々の働きやすさをどう高めるかが重要になります。
移動しやすい。雨の日の負担が少ない。坂道でも疲れにくい。駐輪しやすい。会社が移動手段を用意してくれる。
こうしたことは、一見すると小さな福利厚生に見えます。しかし、現場のスタッフにとっては、毎日の負担に直結する問題です。
自治体が介護人材確保策を考える際にも、事業者の採用広報や職場環境改善の一つとして、移動支援を位置づける余地があります。
介護事業者にとっては、求人票で伝えられる差別化になる
介護事業者にとっても、今回の結果は示唆があります。
「EVバイク貸与あり」 「訪問時の移動負担を軽減」 「自転車・電動自転車よりも楽に訪問可能」 「会社が業務用モビリティを用意」
こうした要素は、求人票や採用ページで伝えやすい差別化になります。
特に、訪問介護では反応が高く出ました。

訪問介護・訪問看護の採用においては、EVバイク貸与は単なる設備投資ではなく、採用広報の材料にもなります。
もちろん、導入には注意点もあります。
安全管理、保険、ヘルメット、雨天時の運用、充電場所、保管場所、事故時の対応。これらを整理せずに導入すると、かえって不安を生む可能性があります。
だからこそ、単にEVバイクを置くだけではなく、運用設計まで含めて導入する必要があります。
EVバイクは、脱炭素より先に「人材確保」の文脈で語るべき
EVバイクというと、どうしても脱炭素やCO₂削減の文脈で語られがちです。
もちろん、それも重要です。ガソリン車や原付からEVに切り替えることで、環境負荷を下げることはできます。
しかし、訪問看護・介護の現場で最初に伝えるべき価値は、そこではないと考えています。
最初に伝えるべきは、
「移動が楽になる」 「働きやすくなる」 「求人で選ばれる理由になる」 「現場の負担を会社が理解していることを示せる」
ということです。
脱炭素は、その先にある副次的な価値です。
介護現場に必要なのは、きれいな理想論ではありません。毎日訪問するスタッフの負担を、少しでも現実的に下げることです。
移動を変えることは、職場の見え方を変えること
今回のアンケートから見えてきたのは、訪問看護・介護の現場において、移動負担が想像以上に大きなテーマであるということです。
77.0%が勤務中の移動に負担を感じている。 79.5%が会社貸与のEVバイクに関心を示している。 77.5%がEVバイク貸与のある職場に応募・転職先として興味を示している。
この結果は、訪問系サービスの採用を考える上で、非常に重要だと感じています。
人材確保は、給与だけでは解決しません。働きやすさは、制度だけでもつくれません。
現場の小さな負担を見つけて、会社や自治体が一つずつ減らしていくこと。それが、これからの介護人材確保に必要なのではないでしょうか。
訪問スタッフの移動を、自己責任にしない。会社が、地域が、自治体が、支える。
EVバイク貸与は、その一つの選択肢になり得るといえるでしょう。
調査概要
項目内容調査対象訪問看護・介護スタッフ経験者
回答数 200名
回答地域 41都道府県
調査日 2026年5月23日
調査方法 クラウドワークス上で実施したインターネットアンケート
主な回答職 種訪問介護、訪問看護、訪問リハビリ、居宅介護支援 など
※本調査は、訪問看護・介護スタッフ経験者を対象とした自主調査であり、業界全体を統計的に代表するものではありません。一方で、現場経験者の実感として、移動負担やEVバイク貸与への関心を把握するうえで参考となる結果です。
※本記事は、株式会社タンソーマンGXの公式note(2026年5月24日掲載)からの転載です。noteで読む
