
2026年に入り、ホルムズ海峡をめぐる中東情勢の緊迫化が、原油価格やLNG価格の上昇圧力として顕在化しつつあります。日本はエネルギーの大部分を輸入に依存しており、これらの燃料価格の変動は時間差を伴って必ず電気料金に波及します。
法人向けの高圧電力でも、その兆しはすでに現れ始めています。2024年から2025年にかけてマイナス圏で推移してきた燃料費調整単価は、2026年に入り急速にゼロ近辺まで戻ってきました。国の電気・ガス料金支援による値引きを除いた実質ベースで見れば、すでにプラス転換の目前にあるといえます。
これまで多くの法人が前提としてきた「燃料費調整単価はマイナス」という状況は、近く終わりを迎える可能性が高い局面です。問われるのは、「プラスに転じるかどうか」ではなく、「プラスに転じた後、どこまで上昇しうるのか」という点に移っています。
電気使用量が大きい法人にとって、燃料費調整単価のわずか1円/kWhの変動でも、月次の損益に直接効いてくるコスト変動になります。製造業、食品工場、物流倉庫、量販店、ホテル、医療・介護施設など、電力を基盤に事業を運営する企業にとっては、もはや「電気代の細かい調整」では片付けられないテーマです。
本稿では、東京電力エナジーパートナーの高圧ベーシックプランを具体例として取り上げ、足元の燃料費調整単価の実態を整理したうえで、電力中央研究所の試算をもとに、2026年夏以降に想定される方向感を整理します。あわせて、月間使用量別の負担増シミュレーションと、契約見直しにあたって確認すべき実務的なポイントもご紹介します。
結論
2026年6月以降、法人向け高圧電力の燃料費調整単価は、上昇方向に振れる可能性が高いと考えられます。
電力中央研究所の試算によれば、2027年3月頃に向けて、家庭用ベースで、原油価格が標準的な水準で推移した場合でも2.1円/kWh程度、原油高と円安が重なった場合で5円/kWh程度、さらに石炭価格まで上昇した場合には9円/kWh程度の上昇が想定されています。
ただし、実際に高圧の燃料費調整単価がどの水準まで上がるかは、契約メニューや算定方式の見直し状況によって変わります。本稿で示す数字は、あくまでリスクの方向感を把握するための参考値として読み取っていただければと思います。
現状認識──燃料費調整単価はすでにプラス
東京電力EPの高圧ベーシックプランを見ると、2026年4月分の燃料費調整単価は、表面上は▲0.73円/kWhとなっています。
ただし、この数字には国の電気・ガス料金支援による高圧向け0.80円/kWhの値引きが含まれています。補助を外して実質ベースで見ると、すでにプラス0.07円/kWh相当に達しており、燃料費調整単価はゼロ近辺まで戻っている状況です。
参考までに、同プランの2026年1月分の燃料費調整単価は▲1.43円/kWhでした。年初からのわずか3か月で、実質ベースではほぼゼロまで戻ってきた計算になります。
さらに重要なのは、国の電気・ガス料金支援が2026年4月使用分で終了することです。5月以降は値引きが入らないため、見かけ上の燃料費調整単価が一段と上がって見える可能性があります。
つまり、2026年夏以降の論点は、「燃料費調整単価がプラスに転じるかどうか」ではなく、「プラスに転じた後、どの水準まで上昇するか」に移っていると整理できます。
なぜ2026年6月以降に上昇する可能性があるのか
燃料費調整単価は、原油、LNG、石炭などの燃料輸入価格をもとに算定されます。
資源エネルギー庁の説明によれば、3〜5か月前の貿易統計価格をベースに算定し、電気料金に反映する仕組みです。このため、中東情勢の悪化により燃料価格が上昇しても、その影響が即座に請求額へ反映されるわけではなく、数か月遅れて顕在化する構造になっています。
なお、東京電力EPは2026年4月から、高圧の標準メニューにおける算定諸元を見直し、平均燃料価格の算定期間も変更しました。算定の物差し自体が以前と変わっているため、過去の単価水準とそのまま比較しづらくなっている点にも留意が必要です。
いずれにしても、2026年春以降に上昇した燃料輸入価格が電気料金に反映されるのは、おおむね2026年6月以降と見込まれます。これは経済産業省も同様の認識を示している点です。
上昇幅の方向感──電力中央研究所の試算から
参考になるのが、電力中央研究所が2026年4月に公表した試算です。
同研究所は、イラン情勢に伴う原油価格上昇が電気料金に与える影響を分析し、3つのシナリオを提示しています。
1つ目は、原油価格が標準的な水準で推移した場合のシミュレーションで、2027年3月時点で基準月(2026年1月)より約2.1円/kWh上昇すると試算されています。
2つ目は、原油価格の高止まりに加えて為替が1ドル160円程度まで円安が進んだ場合で、上昇幅は約5円/kWh。
3つ目は、原油高と円安に石炭価格の上昇まで重なった場合で、上昇幅は約9円/kWhと試算されています。
ただし、ここで重要な留意点があります。この試算は10電力会社の家庭用経過措置料金を対象としたものであり、法人向けの高圧そのものをシミュレーションしたものではありません。
そのため、高圧の燃料費調整単価が「何円/kWhまで上がるか」を断定的に示すことは困難です。それでも、原油・LNG・石炭の輸入価格をベースに算定されるという仕組みは家庭用も高圧も共通であるため、方向感としては、高圧でも同程度の上昇圧力がかかる可能性は十分にあると考えられます。
このまま標準的に推移したら2円/kWh前後、原油価格の高止まりと円安が重なれば5円/kWh前後、石炭価格まで上がれば9円/kWh前後という方向感と予想します。
法人電気料金への影響額
燃料費調整単価が1円/kWh変動すると、法人にとってどの程度のインパクトがあるのか。月間使用量別に試算すると次のとおりです。
月間使用量30,000kWhの事業所では、+1円/kWhで月3万円、+2円/kWhで月6万円、+5円/kWhで月15万円、+9円/kWhで月27万円の負担増となります。
月間使用量100,000kWhの事業所では、+1円/kWhで月10万円、+2円/kWhで月20万円、+5円/kWhで月50万円、+9円/kWhで月90万円の負担増です。
月間使用量300,000kWhの大型施設では、+1円/kWhで月30万円、+2円/kWhで月60万円、+5円/kWhで月150万円、+9円/kWhで月270万円の負担増になります。
製造業、食品工場、物流倉庫、量販店、ドラッグストア、ホテル、医療機関、介護施設、自動車ディーラーなど、電力使用量の多い事業者にとっては、月次利益を直接圧迫するコスト要因です。
契約見直しにあたっての確認事項
2026年夏以降の電気料金対策では、基本料金や電力量料金の単価比較だけでは不十分です。少なくとも次の項目を確認することが望まれます。
1つ、燃料費調整単価の現在水準。
2つ、政府支援の適用有無と終了時期。
3つ、支援終了後の実質単価。
4つ、市場価格調整の有無。
5つ、市場連動部分の上振れリスク。
6つ、燃料価格上昇時の請求額シミュレーション。
東京電力EPの高圧ベーシックプランでは、燃料費調整単価に電気・ガス料金支援が適用される一方、市場価格調整単価には値引きが含まれない旨が説明されています。同じ「高圧」契約であっても、メニューによって実際の請求額の動き方は異なる点に留意が必要です。
まとめ
法人向け高圧電力においては、燃料費調整単価が「マイナスから戻る」段階は終わりつつあり、今後の焦点は「プラス幅がどこまで広がるか」に移っています。
電力中央研究所の試算では、原油価格が標準的に推移した場合でも2.1円/kWh、円安が重なった場合は5円/kWh、石炭価格まで上昇した場合は9円/kWhの上昇が想定されています。法人の高圧については、契約メニューや算定方式の違いから断定はできませんが、方向感としては同程度の上昇圧力を視野に入れておくべき局面です。
実際の燃料費調整単価は、電力会社、供給エリア、契約メニュー、高圧か特別高圧か、市場価格調整の有無、国の補助の有無によって変動します。それでもなお、2026年夏以降の法人電気料金を検討するうえで、燃料費調整単価の上振れリスクは無視できない論点です。
電気料金は契約単価のみで決まるものではなく、燃料価格の変動次第で同じ契約でも請求額が大きく変動します。2026年の高圧電力は、まさにそのリスクが顕在化しやすい局面に入っているといえます。
参考サイト
東京電力エナジーパートナー「燃料費調整単価等一覧」
資源エネルギー庁「燃料費調整制度について」
電力中央研究所 社会経済研究所「イラン情勢に伴う原油価格上昇が家庭用電気料金に与える影響」
経済産業省「エネルギー価格の支援について」
※本記事は、株式会社タンソーマンGXの公式note(2026年5月22日掲載)からの転載です。noteで読む
