
この記事では、事業所にEV充電器を置くと契約電力(基本料金の基準になる電力)がどう変わるかを説明し、その上昇を抑えるデマンド制御やエネルギーマネジメントに使える補助の範囲を整理します。対象は、国の充電インフラ補助金(令和7年度補正)の「デマンド工事」と受変電設備の扱い、SIIの省エネ補助金のEMS(エネルギー管理システム)、タクシー・バス向けの受電設備の補助です。
充電器で契約電力が上がる仕組み
高圧で電気を受けている事業所(契約電力50kW以上500kW未満が中心)の多くは、過去の使用実績で契約電力が決まります。たとえば関西電力の「高圧電力AS」(2026年11月1日実施の料金表)では、各月の契約電力を「その1月の最大需要電力と前11月の最大需要電力のうち、いずれか大きい値」と定めています。最大需要電力は、30分ごとの平均使用電力(30分デマンド)のうち、その月で最も大きい値です。
このため、充電器を複数台同時に動かして一度でも30分デマンドが上がると、その値が以後12か月の契約電力になります。同じ料金表の基本料金は契約電力1kWにつき月2,200円88銭なので、仮に最大需要電力が50kW上がれば、基本料金は単純計算で月約11万円増えます(力率による割引・割増を除く)。料金の決め方は電力会社と契約メニューで異なるため、自社の契約で確認してください。
- 充電の時間をずらす運用ルールで同時充電を避ける。費用はかからないが人に依存する
- 充電器のデマンド制御受電点の電力を監視し、上限に近づくと充電出力を絞る・止める
- 工場全体のEMS空調や生産設備も含めて計測・制御し、ピークをならす
- 受電設備の増強・別契約容量そのものを増やす。基本料金は上がる前提
上から順に検討すると、設備投資を抑えやすい。
充電インフラ補助金の「デマンド工事」
国の充電インフラ補助金(クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てん設備等導入促進補助金)では、充電器の設置工事費の中に「デマンド工事」という項目があります。令和7年度補正の申請の手引きでは、「設置する施設等の契約電力を超えないようデマンドを監視し、コントロールする機能をもった機器を設置する工事」とされ、機器本体費と設置の部材費・労務費を申告できます。
- デマンドの制御機能は、申請する充電設備本体のみが対象です。空調など充電器以外を制御する部分は対象外です。
- 監視だけの機能、別売モニターや外部プリンターなどのオプションは対象外です。
- 機器は原則として既製品に限られます。申請時には、定価が分かるカタログと、性能・機能が分かる仕様書の提出が必要です。
- デマンド機能が充電設備と一体で型式承認されている場合は、その分を別に申告せず、カタログ等の提出も不要です。
- 計測受電点の使用電力を常時計る
- 予測30分の時限内の到達値を見込む
- 制御目標値を超えそうなら充電出力を絞る・止める
- 復帰余裕が戻れば充電を再開する
補助の対象は、充電設備本体を制御する機器に限られる。
事務所・工場等の基礎充電では、OCPP1.6以降またはECHONET Liteに準拠した充電設備であることが要件です(通信を介さずに課金・制御する場合を除く)。いずれも外部から充電器の出力を管理するための通信規格で、デマンド制御やエネルギー管理と組み合わせやすくなります。
目的地充電は「同時稼働」が前提
商業施設や宿泊施設などに置く目的地充電では扱いが異なります。手引きは、複数基を置く場合、すべての充電設備がそれぞれ承認された定格出力で同時に稼働することを前提に、必要な電気設備の工事を行うことを要件にしています。来客向けの充電器では、デマンド制御で出力を絞ることを前提にした容量設計はできないと考えておく必要があります。
受変電設備と別契約の扱い
既存の受変電設備では充電器を動かせない場合、同じ補助金で受変電設備の工事費を申告できる場合があります。ただし対象は、充電設備に必要な電力量だけを確保するために増設・新設するものに限られます。
- 変圧器の交換工事、新築施設全体に電気を送る受変電設備、充電設備以外への電力供給は対象外
- 低圧で受電している場所で、充電器の設置によって高圧契約に変わる場合は、充電設備専用の変圧器があるなどの場合を除き、原則として対象外
- 「同一敷地内電力複数契約を可能とする特別措置」で充電器用に別の電力契約を結ぶ場合は、一般送配電事業者が請求する工事負担金を申告できる
充電器の設置場所の選び方は充電器の設置場所の選び方、急速と普通の違いは急速充電器と普通充電器 補助金の上限額の違いで解説しています。
工場全体で管理するならSIIのEMS
充電器だけでなく、空調や生産設備まで含めてピークを抑えたい場合は、SII(環境共創イニシアチブ)の「省エネ・非化石転換補助金」の「(Ⅳ)エネルギー需要最適化型」が候補です。SIIに登録されたEMSを導入し、エネルギーの使用状況を計測・分析して運用を改善する事業が対象です。
- 補助率は中小企業者等が1/2以内、大企業・その他が1/3以内。上限1億円、下限30万円(令和7年度補正、設備単位型と組み合わせる場合)
- 2年間のEMS活用計画を作り、省エネルギー率2%改善を目安とする。1年目・2年目に成果をSIIへ報告し、自社のホームページで公表する
- 設備単位型の公募ではEMS単独の申請はできず、単独で導入する場合は工場・事業場型の(Ⅳ)型に申請する
- AIで自動調整する「高度型EMS」について、公募要領は「デマンドコントローラーのみの機能」は認められないとしている
つまり、充電器のピークを抑える装置だけなら充電インフラ補助金のデマンド工事、工場全体の計測・制御と省エネ計画まで行うならSIIのEMSという分担になります。EMSの詳細は省エネ補助金「エネルギー需要最適化型」をご覧ください。
充電インフラ補助金
- 充電器本体を制御するデマンド機器
- 充電器専用の受変電設備の増設・新設
- 特別措置による別契約の工事負担金
SII(Ⅳ)エネルギー需要最適化型
- 工場・事業場の計測・見える化・制御
- 2年間の活用計画と成果の公表
- デマンドコントローラーのみは高度型に該当しない
商用車等の電動化促進事業
- タクシー・バスと一体の充電設備
- 高圧受電設備・工事費は1/1(上限あり)
- 上限は設備総出力に応じ300万〜900万円
いずれも令和7年度補正。商用車等の電動化促進事業はタクシー・バス分(日本自動車輸送技術協会)の公募要領による。
導入前に確認しておきたいこと
- 過去12か月の30分デマンドの推移と、現在の契約電力・受変電設備の容量
- 充電する台数と時間帯、1台当たりに必要な充電量
- 充電器の出力と台数(同時に動かした場合の最大値)
- デマンド制御を充電器だけで行うか、工場全体のEMSで行うか
- 補助金の公募時期。令和7年度補正の充電インフラ補助金は、事務所・工場等の区分の通常募集が既に行われており、次回の時期は未公表
社用車のEV化と組み合わせる場合の補助金の順番は社用車・営業車のEV化と拠点での充電で解説しています。
まとめ
EV充電器は、同時に動かすと30分デマンドを押し上げ、その後12か月の基本料金に影響します。国の充電インフラ補助金では、充電器本体を制御するデマンド機器を「デマンド工事」として申告でき、受変電設備は充電器専用の増設・新設に限って対象になります。工場全体でピークを管理する場合はSIIのEMSが候補です。充電器の台数を決める前に、デマンドの実績と制御の方法を決めておくことが大切です。
タンソーマンGXでは、充電器の導入に伴う契約電力の試算から、使える補助金の選定、申請書類の作成、実績報告までを支援しています。詳しくは補助金支援のページをご覧ください。
参考資料
- 次世代自動車振興センター 令和7年度補正 申請の手引き 充電設備(第1期・第2期)
- 次世代自動車振興センター 令和7年度補正「充電設備補助金」交付規程・手引き
- SII 令和7年度補正予算 省エネ・非化石転換補助金(設備単位型)公募要領(4次公募用)
- 日本自動車輸送技術協会 令和7年度(補正予算)商用車等の電動化促進事業(タクシー・バス)公募要領
- 関西電力 高圧電力AS 料金表(2026年11月1日実施)
本記事の内容は2026年10月22日時点で公表されている資料に基づきます。最新の条件は各事務局の公募要領をご確認ください。



