
ホテル・旅館は、客室の空調、大浴場や客室の給湯、厨房、照明が一日中動いており、エネルギー費が経営を圧迫しやすい業種です。この記事では、宿泊施設が使える国の省エネ補助金を「設備ごとの更新」と「建物全体の改修」に分けて整理し、令和8年度時点の公募状況と、申請前に押さえたい注意点を説明します。
宿泊施設のエネルギーはどこで使われているか
補助金を選ぶ前に、自社の施設でどの設備がエネルギーを多く使っているかを把握することが出発点です。宿泊施設では、一般に次の設備が大きな比重を占めます。
- 給湯:大浴場、客室の浴室、厨房、リネン洗濯。ボイラや給湯器が24時間動いている施設も多くあります。
- 空調:客室、ロビー、宴会場。稼働率や季節で負荷が大きく変わります。
- 照明:共用部や外構は点灯時間が長く、更新効果が出やすい設備です。
- 厨房・冷凍冷蔵:朝食・宴会用の冷蔵庫や冷凍庫、ショーケース。
電気・ガス・重油の請求書を12か月分並べ、季節ごとの変化を見るだけでも、空調と給湯のどちらが重いかの見当がつきます。補助金の申請では更新前後のエネルギー使用量を計算するため、この段階の整理がそのまま申請書の基礎資料になります。
設備ごとに更新するなら「省エネ・非化石転換補助金(設備単位型)」
空調や給湯器など、特定の設備を高効率の機器に入れ替える場合に中心となるのが、一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)が執行する「省エネ・非化石転換補助金(設備単位型)」です。令和7年度補正予算の事業として、2026年10月5日から10月30日17時(必着)まで4次公募が行われています。申請書類は郵送で提出し、交付決定は12月下旬の予定とされています。
4次公募の公募要領では、SIIが基準を定めて公表した「指定設備」への更新が対象です。設備区分には、高効率空調、業務用給湯器、高性能ボイラ、高効率コージェネレーション、冷凍冷蔵設備、変圧器、制御機能付きLED照明器具などが含まれており、宿泊施設で使う主要な設備の多くが該当します。業務用給湯器にはヒートポンプ給湯器と潜熱回収型給湯器(排気の熱も回収して効率を高めるガス・石油式の給湯器)の区分があります。
補助率と上限額(令和7年度補正・4次公募)
- 設備単位型(従来枠):補助率1/3以内、上限1億円、下限30万円。対象経費は設備費のみです。
- 電化・脱炭素燃転型(更新):ボイラから業務用ヒートポンプ給湯器への切り替えのように、電化や燃料転換を伴う更新が対象です。補助率1/2以内、上限3億円(電化する場合は5億円)。中小企業者等は工事費も対象になります。
- エネルギー需要最適化型:EMS(エネルギーの計測・見える化・制御を行うシステム)の導入。補助率は中小企業者等1/2以内、大企業等1/3以内、上限1億円です。
設備単位型(従来枠)
- 指定設備への更新
- 補助率1/3以内
- 上限1億円
電化・脱炭素燃転型
- ボイラ→ヒートポンプ等
- 補助率1/2以内(更新)
- 上限3億円(電化は5億円)
エネルギー需要最適化型
- EMSの導入
- 中小1/2・大企業等1/3
- 上限1億円
SII「設備単位型」公募要領(4次公募用)より。対象者・要件の詳細は公募要領を確認してください。
なお、大企業は省エネ法のクラス分けでSクラス・Aクラスに該当するなどの条件を満たす場合に限り対象となります。中小企業者等の定義には、会社以外の法人で従業員300人以下の法人も含まれます。
建物全体を改修するなら「工場・事業場型」と「脱炭素ビルリノベ」
空調・給湯・照明をまとめて更新する、断熱改修も同時に行うといった大きな計画では、設備単位型よりも事業所全体を対象とする制度が合う場合があります。
省エネ・非化石転換補助金(工場・事業場型)
同じくSIIが執行する事業で、令和7年度補正予算の4次公募が設備単位型と同じ2026年10月5日から10月30日まで行われています。事業所全体での省エネ率や省エネ量の要件を満たす計画が対象です。補助率や上限は枠ごとに異なるため、4次公募の公募要領で確認してください。
業務用建築物の脱炭素改修加速化事業(脱炭素ビルリノベ2026事業)
環境省の令和8年度予算事業で、既存の業務用建築物の外皮の高断熱化(断熱窓・断熱材)と、高効率空調、制御機能付きLED照明、業務用給湯器、BEMSなどの導入を支援します。公募期間は2026年6月4日から11月30日までで、予算に達した時点で締め切られることがあります。
- 補助額は設備費・工事費・設計費の1/2から1/3で、上限10億円、下限200万円です。
- 改修後の外皮性能(BPI)が1.0以下であること、建物用途に応じて一次エネルギー消費量を省エネ基準から約30%または40%削減すること、BEMS等でエネルギー管理を行うことが主な要件です。
- 公募情報では、ホテルは病院・百貨店・飲食店などとともに約30%削減の区分に分類されています。
省エネ以外で宿泊業向けに用意されている支援
観光庁は令和7年度補正予算で「観光地・観光産業における省力化投資補助事業」を実施し、宿泊業の人手不足の解消に向けた設備投資を支援しました。事業者の申請期間は2026年3月27日から5月29日で、すでに締め切られています。この事業は省力化が目的で、省エネ設備の更新を主目的とする制度ではありません。次の公募の有無や内容は、観光庁の発表を確認してください。
このほか、都道府県や市区町村が宿泊事業者向けの省エネ・設備更新の補助を独自に行っていることがあります。自治体の制度は国の補助金と併用できる場合とできない場合があるため、両方の要綱で確認が必要です。探し方は「自治体の補助金の探し方」で解説しています。
宿泊施設が申請するときの注意点
- 契約・発注は交付決定の後:設備単位型の公募要領では、契約・発注は交付決定日以降に行うこととされ、交付決定前に発注した設備は対象になりません。繁忙期を避けて工事をしたい場合も、交付決定の時期から逆算して工程を組む必要があります。
- 3者以上の見積:補助対象経費は原則3者以上の見積や競争入札による最低価格が上限です。メーカーや機種を指定して見積を取ることはできますが、異なる販売事業者3者から取得する必要があります。
- 営業しながらの工事:客室や浴場を止める期間をどう確保するかは、補助事業の完了期限に直結します。4次公募の設備単位型では、原則2027年1月31日までに事業を完了させる必要があります。
- 年度ごとに条件が変わる:補助率、対象設備、公募回数は予算年度ごとに見直されます。前年度の情報で計画を立てず、最新の公募要領で確認してください。
- 使用量の把握電気・ガス・重油の12か月分
- 更新設備の選定給湯・空調・照明の優先順位
- 制度の選択設備単位か建物全体か
- 3者見積と申請公募期間内に提出
- 交付決定後に発注閑散期に工事
まとめ
ホテル・旅館の省エネ投資では、給湯と空調の更新が中心になります。設備を個別に入れ替えるなら設備単位型(電化を伴う場合は電化・脱炭素燃転型)、断熱を含めて建物全体を改修するなら脱炭素ビルリノベ事業が候補です。いずれも公募期間が限られ、交付決定前の発注は認められないため、工事時期と申請時期を合わせて計画することが重要です。
タンソーマンGXでは、宿泊施設の省エネ設備更新について、制度の選定から申請書類の作成、実績報告までを支援しています。詳しくは補助金支援のページをご覧ください。
参考資料
- SII 令和7年度補正予算 省エネ・非化石転換補助金(設備単位型)4次公募
- SII 設備単位型 公募要領(4次公募用)
- SII 令和7年度補正予算 省エネ・非化石転換補助金(工場・事業場型)4次公募
- 環境省 報道発表 令和8年度 業務用建築物の脱炭素改修加速化事業の公募
- 脱炭素ビルリノベ2026事業 公募情報(SII)
- 観光庁 観光地・観光産業における省力化投資補助事業
本記事の内容は2026年10月21日時点で公表されている資料に基づきます。最新の条件は各事務局の公募要領をご確認ください。



