公開 2026.10.21

賃上げ要件とは 補助金で増えている「賃上げ」条件の注意点

国の補助金では、設備投資への支援と引き換えに「従業員の賃金を引き上げること」を求める制度が増えています。この記事では、賃上げ要件で使われる用語の意味、2026年に公募されている主な補助金での具体的な基準、そして目標未達のときに補助金の返還が生じる仕組みを、公募要領に沿って解説します。

賃上げ要件とは何か

賃上げ要件とは、補助事業の終了後、一定の期間(多くは3〜5年)にわたって賃金の水準を引き上げる計画を立て、実際に達成することを求める条件です。主に次の2つの指標が使われます。

  • 一人当たり給与支給総額:従業員に支払った給料・賃金・賞与などの合計を従業員数で割った額です。役員報酬、福利厚生費、法定福利費、退職金は含みません。パートタイム従業員は正社員の就業時間に換算して人数を数えます。
  • 事業場内最低賃金:補助事業を行う事業場の中で最も低い賃金です。これを都道府県の地域別最低賃金と比べます。

どちらも申請時は「計画」ですが、補助金を受け取った後の事業化状況報告で決算書や賃金台帳により達成状況が確認されます。

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の基準

中小企業基盤整備機構が公表した「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の公募要領(第1回)では、基本要件として次が定められています。

  • 賃上げ要件:補助事業終了後3〜5年の事業計画期間に、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上増加させる計画を立て、達成すること。目標値は交付申請時までに全従業員または従業員代表者に表明する必要があります。
  • 事業場内最賃水準要件:事業計画期間中、毎年、事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高い水準であること。
  • 付加価値額要件:付加価値額(営業利益・人件費・減価償却費の合計)の年平均成長率を4.0%以上とすること。

さらに、補助上限額を引き上げる「賃上げ特例」では、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を合計6.0%以上、事業場内最低賃金を地域別最低賃金より50円以上高くすることが求められます。

また、補助率を引き上げる「地域別最低賃金引上げ特例」もあります。2024年10月から2025年9月までの間に、その期間の地域別最低賃金以上、2025年度改定後の地域別最低賃金未満の賃金で雇用している従業員が全従業員の30%以上である月が3か月以上あることが条件で、適用されると基本要件から事業場内最賃水準要件が除かれます。申請時には指定様式と賃金台帳の提出が求められます。

中小企業省力化投資補助金(一般型)の基準

中小企業省力化投資補助金(一般型)の事業概要でも、同じ考え方の基本要件が示されています。

  • 一人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%(日本銀行が定める「物価安定の目標」+1.5%)以上増加させること
  • 事業所内最低賃金が事業実施都道府県の最低賃金+30円以上の水準であること
  • 大幅賃上げ特例では、年平均成長率を合計6.0%以上、事業所内最低賃金を最低賃金+50円以上とすること(補助上限額を250〜2,000万円上乗せ)
基本要件と賃上げ特例の違い(新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の例)

基本要件

  • 一人当たり給与支給総額 年平均3.5%以上
  • 事業場内最低賃金 地域別+30円以上
  • 未達の程度に応じて一部返還

賃上げ特例

  • 一人当たり給与支給総額 年平均6.0%以上
  • 事業場内最低賃金 地域別+50円以上
  • 未達なら上限引上げ分を全額返還

第1回公募要領(1.2版、令和8年8月)より。

未達のときの返還の仕組み

賃上げ要件で最も注意すべき点は、目標未達の場合に補助金の返還が求められることです。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の公募要領では、次のように定められています。

  • 従業員への目標値の表明がされていなかった場合は、交付決定の取消しと補助金全額の返還
  • 一人当たり給与支給総額の目標未達は、「補助金交付額×(1−実績の年平均成長率÷目標値)」の返還。成長率がゼロまたはマイナスなら全額返還
  • 事業場内最低賃金の基準未達は、その年ごとに「補助金交付額÷事業計画期間の年数」の返還
  • 賃上げ特例の要件未達は、上限額引上げ分の全額返還

一方で、付加価値額が増加しておらず、かつ企業全体として一定期間営業利益が赤字の場合や、天災など事業者の責めによらない理由がある場合には、一部返還を求めない扱いも示されています。なお、申請後に故意または重大な過失で給与支給総額を引き下げて要件を達成することは認められません。

省エネ補助金にも「賃上げ」が関わる

省エネ・非化石転換補助金(令和7年度補正)では、GX経済移行債を財源とする区分で「GX要件」の表明が求められます。設備単位型の公募要領では、電化・脱炭素燃転型の申請者(民間企業)に対し、企業の成長につながる方針の策定とあわせて、「必要な人材の確保に向けた取組(例:継続的な賃上げ)」を進めることが要件として記載されています。賃上げの数値目標を課す形ではありませんが、制度の趣旨として賃上げが位置づけられている点は押さえておく必要があります。

申請前に確認したいこと

  • 基準年度の数字を把握する:補助事業の終了時点を含む事業年度の一人当たり給与支給総額が基準になります。決算期と補助事業の終了時期の関係を確認します。
  • 人員計画と合わせて試算する:採用や退職、時短勤務の扱いで一人当たりの数字は動きます。全月分の給与を受けた従業員だけが算出対象になる点にも注意が必要です。
  • 無理のない目標を置く:高い目標は審査で評価される一方、未達時の返還額も大きくなります。
  • ワークライフバランス要件も早めに:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、「両立支援のひろば」で公表していることも要件です。掲載には1〜2週間程度かかるとされているため、締切直前では間に合わないことがあります。
  • 最低賃金の改定を織り込む:地域別最低賃金は毎年改定されるため、「+30円」の基準は毎年上がっていきます。

賃上げ要件の数値は年度や公募回ごとに見直されることがあります。過去の公募の基準をそのまま使わず、申請する回の公募要領で必ず確認してください。制度ごとの概要は「新事業進出補助金の概要」もあわせてご覧ください。

タンソーマンGXでは、補助金ごとの賃上げ要件や返還条件を踏まえた事業計画の作成から、申請書類の準備、採択後の報告までを支援しています。

参考資料

本記事の内容は2026年10月21日時点で公表されている資料に基づきます。最新の条件は各事務局の公募要領をご確認ください。

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