
この記事では、加温設備のある農業用ハウス(施設園芸)でヒートポンプなどの省エネ機器を導入するときに使える国の支援を整理します。農林水産省の産地生産基盤パワーアップ事業の「施設園芸エネルギー転換枠」と、燃料価格高騰対策のセーフティネット、個別の事業者が使えるSIIの補助金の関係が分かります。
施設園芸で省エネ機器の導入が課題になる理由
農林水産省は、施設園芸と茶を「経営費に占める燃料費の割合の高い」分野と位置づけています。同省の資料「施設園芸をめぐる情勢(令和8年5月)」によると、2024年時点で加温設備を備えた園芸施設は16,162haで、そのうち重油等の化石燃料のみに依存している施設は14,112ha(約9割)です。
農林水産省「施設園芸をめぐる情勢(令和8年5月)」。
同じ資料は、ヒートポンプについて、低温時に暖房能力が下がることや初期費用が高いことを課題に挙げています。さらに、電気料金の高騰によって導入のメリットが薄れていることも普及の障害としています。導入を検討する際は、補助金の有無だけでなく、燃料と電気の価格を前提にした運転費の比較が欠かせません。
産地生産基盤パワーアップ事業(施設園芸エネルギー転換枠)
農林水産省は、省エネ化と経営の安定化を図るため、加温設備を有する施設園芸産地を対象に、産地生産基盤パワーアップ事業に「施設園芸エネルギー転換枠」を設け、ヒートポンプ等の省エネ機器や内部設備のリース導入等を支援しています。同省の資料に示された主な内容は次のとおりです。
- 交付率:1/2以内等
- 補助上限:20億円
- 要件:受益農業者5名以上、または面積1ha(施設野菜の場合)
- 成果目標:省エネ機器の導入面積を産地の50%以上に拡大する、または燃油使用量を15%以上低減する、のいずれかを選択
- 事業実施主体:地域農業再生協議会等が作成する「産地パワーアップ計画」に位置づけられている農業者、農業者団体等
- 条件:施設園芸等燃料価格高騰対策への加入が必要
この事業は個々の農業者が国に直接申請する仕組みではありません。資金は国から基金管理団体、都道府県を経て事業実施主体に交付されます。
農林水産省「施設園芸をめぐる情勢(令和8年5月)」の交付先の記載をもとに作成。
まず、産地の地域農業再生協議会や都道府県の担当部署に、産地パワーアップ計画の策定状況と、エネルギー転換枠の募集予定を確認することが第一歩です。計画に位置づけられていなければ支援の対象にならないため、個々の農業者も計画づくりの段階から関わることが大切です。
燃料価格高騰対策(セーフティネット)
エネルギー転換枠の前提となる「施設園芸等燃料価格高騰対策」は、計画的に省エネルギー化に取り組む産地を対象に、農業者と国が基金を設け、燃油・ガスの価格が一定の基準を超えた場合に補塡金を交付する仕組みです。令和7年度補正予算では44億円が計上されています。
- 省エネルギー対策計画を策定し、燃料使用量の15%以上の削減に取り組む(2期目以降は単位生産量あたりの削減目標でも可)
- 積立ての負担割合は国と生産者で1対1
- 補塡金は、発動基準価格(過去7年中5年の平均)との差額に当月購入数量の70%を掛けた額(価格急騰時等は100%に引き上げ)
- 対象燃料はA重油、灯油、LPガス、LNG(都市ガス)。施設園芸の対象期間は10月から翌6月
省エネ機器の導入は、このセーフティネットで求められる燃料使用量の削減目標を達成する手段にもなります。
このほか、燃料費の負担軽減策として、農業用A重油の石油石炭税(2,800円/KL)について、輸入A重油の免税措置と国産A重油の還付措置が設けられています(税制特例措置:令和5〜10年度)。ヒートポンプへの切り替えを検討する際は、こうした燃料側の支援を含めて現状の燃料費を正しく把握したうえで、運転費を比較することが大切です。
法人・個人で導入する場合:SIIの補助金
産地の計画とは別に、農業法人や個人事業主がヒートポンプなどを導入する場合は、経済産業省の省エネ・非化石転換補助金(SII)も候補になります。令和7年度補正予算の設備単位型の公募要領では、指定設備の区分に産業ヒートポンプが含まれ、トップ性能枠の説明では「低(農業用途含む)・中・高温帯で活用可能なヒートポンプ設備」とされています。
- 従来枠の補助率は1/3以内、上限1億円、下限30万円。補助対象は設備費のみ
- 省エネ率10%以上、省エネ量1kl以上、経費あたり省エネ量1kl/千万円以上のいずれかを満たすこと
- 個人事業主は青色申告者に限る
- 令和7年度補正予算分の4次公募は2026年10月5日から10月30日17時まで
重油ボイラなどからヒートポンプに置き換える場合は、電化・脱炭素燃転型も対象になり得ます(電化・脱炭素燃転型)。農林水産省の事業とSIIの補助金を同じ経費に重ねることはできないと考え、どちらを使うかを事前に整理してください。
導入を検討するときの進め方
- 現在の燃料使用量と加温期間を整理し、ヒートポンプとの併用(ハイブリッド運転)を含めて運転費を比較する
- 産地の協議会・都道府県に、産地パワーアップ計画とエネルギー転換枠の予定を確認する
- セーフティネットへの加入状況と、省エネルギー対策計画の削減目標の進み具合を確かめる
- 個別導入ならSIIの公募時期に合わせて見積と省エネ量の計算を準備する
営農型太陽光など、農業施設での再エネ導入については営農型太陽光・農業施設の再エネ導入支援で解説しています。制度の条件は年度ごとに変わるため、最新の要領を必ず確認してください。
タンソーマンGXでは、施設園芸の省エネ機器導入に使える制度の整理から、申請書類の作成、実績報告までを支援しています。詳しくは補助金支援のページをご覧ください。
参考資料
- 施設園芸をめぐる情勢(令和8年5月)|農林水産省
- 施設園芸等燃料価格高騰対策(令和7年度補正予算)|農林水産省
- 令和7年度補正予算 省エネ・非化石転換補助金(設備単位型)公募要領(4次公募)|環境共創イニシアチブ
本記事の内容は2026年10月21日時点で公表されている資料に基づきます。最新の条件は各事務局の公募要領をご確認ください。



